第8回 近代建築の名作がズラリと並ぶ三条通

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■近代建築の名作がズラリと並ぶ三条通

 かつて東海道の終起点だった三条大橋のある三条通は、経済的にも文化的にも京都でもっとも重要な通りとしての歴史を持ち、近代以降は新しい時代を反映した洋風建築が数多く建てられた。三条通を今歩くことで、明治から昭和初期の建築が持つ若々しい息吹きに触れることができる。
 三条河原町の交差点を西に入るとアーケードのある三条名店街があり、それを抜けた先から近代建築の宝庫としての三条通が始まる。

 御幸町通の東南角に建つのが「1928ビル(旧毎日新聞社京都支局ビル)」。昭和3年(1928年)竣工、武田五一設計。明るい黄土色のアールデコ調で、星形の窓とバルコニーが印象的。武田はこの前年に「京都市役所」を手がけ、関西建築界の父と呼ばれる。

 次の麩屋町通を越えた左手、ひときわ目を引くのが赤レンガの洋館「旧家邊徳時計店」。明治23年(1890年)竣工。京都の近代建築の商店ではもっとも古いと言われ、前面の三連アーチのデザインがことに美しい。

 次の富小路通の西北角には「SACRAビル(旧不動貯金銀行京都支店)」。大正5年(1916年)竣工。白い建築と緑色の屋根のコントラストが鮮やか。
 次の柳馬場通の西北角に、大正3年(1914年)竣工の「日本生命京都三条ビル(旧日本生命京都支店)」の建物。そして洋館が建ち並ぶ三条通にあって、それらとは対照的な異色さを放っているのが、次の堺町通の東北角に建つ重厚な町家造の「分銅屋 足袋」。明治維新まであと4年の幕末、元治元年(1864年)に創業した足袋の専門店で、京都の商家の歴史と伝統を象徴する堂々たる構えである。
 次の高倉通の西北角に厳然とそびえ建つのは、赤レンガに白いラインが荘重かつ華麗な美しさを見せる「京都文化博物館別館(旧日本銀行京都支店)」。明治39年(1906年)竣工、辰野金吾とその弟子・長野宇平治設計。「東京駅」をはじめ日本の近代建築史に偉大な足跡を残す辰野の傑作の一つ。吹き抜けの高い天井のホールには、銀行時代の窓口がそのまま残っていて往時を偲ばせる。
 そのすぐ西隣り、次の東洞院通の東北角に「中京郵便局(旧京都郵便局)」。明治35年(1902年)竣工、吉井茂則設計。昭和53年(1978年)の改築時、赤レンガの外壁を残すファサード保存法を採用して今の形になる。

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1928ビル(旧毎日新聞社京都支局ビル)

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旧家邊徳時計店

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SACRAビル(旧不動貯金銀行京都支店)

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分銅屋 足袋

著者プロフィール

井上明久(いのうえ・あきひさ)

1945年、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。河出書房新社入社、後に中央公論社入社。1991年から6年間「マリ・クレール」編集長を務める。 1997年、同社退社後、執筆活動に入る。著書に、長編小説『佐保神の別れ』、『惜春』、『我ら聖なる天使の群れ』、『夏、ぼくらの巨人』。随筆『東京の 子規──歩く人・正岡子規』等がある。

著書

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第7回 個性的な喫茶店と古書店の組合せ             「カフェ ビブリオティック ハロー」「レティシア書房」

■個性的な喫茶店と古書店の組合せ
「カフェ ビブリオティック ハロー」「レティシア書房」

 京都は古い歴史を持つ街にふさわしく、個性的な喫茶店と個性的な古書店の宝庫である。そして喫茶店と古書店というのは、しばしば好一対の組合せとなる存在である。つまりは、珈琲と古本とはよく似合うということだ。
 二条通と柳馬場通の交差点を東へ少し行った左側に、外観も店内も実に個性的な喫茶店がある。その名は「Café Bibliotic Hello!(カフェ ビブリオティック ハロー)」である。店の前には大きく高いバナナの木がドーンと生えていて、まるで南国そのものの雰囲気を漂わせている。
 店内に入ると左側の壁面いっぱいに天井までの本棚が設えられていて、そこを本や雑誌がビッシリと埋めつくしている。インテリア開運や絵本などをはじめ、ザッと見、1000冊ぐらいはあるだろうか。それらを取り出して眺めたり、自分の持っている本を読んだり、この店の椅子にすわったらついつい読書をしたくなってしまう、そんな心地良いカフェ空間がここには広がっている。

 もしその時、たまたま読む本を持っていなかったり、ついさっき読み終えてしまったりということがあったら、カフェを出て二条通を西へ、柳馬場通、堺町通と二本越して、三本目の高倉通を左に曲がるとすぐの左手に、おすすめしたい古書店がある。
 その店の名は、何と、「レティシア書房」。今、書店名の前に、何と、という感動詞を置いた。感嘆詞と言い直してもいい。とにもかくにも書店の名が、レティシア、なのだ。よくぞ付けたり、とこれは感動していいだろう。感嘆していいだろう。
 ロベール・アンリコ監督、アラン・ドロン、リノ・バンチュラ、ジョアンナ・シムカス主演の1967年フランス映画『冒険者たち』。ドロンとバンチュラの双方から愛を傾けられるシムカス演じるヒロインの名が、そう、レティシア、なのだ。フランソワ・ド・ルーベの美しい旋律とともに、強く強く忘れ難い印象を残す永遠の一作である。
 店名もレティシアとしただけで、店主の美意識の高さは確かである。従って、本や雑誌のセレクトは申し分ない。日本全国のリトルプレスを豊富に取り揃えているのも特徴の一つである。また、当然ながら映画関連の書籍も充実している。京都の個性的な古書店として、「レティシア書房」は文句なくその一軒である。

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Café Bibliotic Hello!(カフェ ビブリオティック ハロー)

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レティシア書房

著者プロフィール

井上明久(いのうえ・あきひさ)

1945年、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。河出書房新社入社、後に中央公論社入社。1991年から6年間「マリ・クレール」編集長を務める。 1997年、同社退社後、執筆活動に入る。著書に、長編小説『佐保神の別れ』、『惜春』、『我ら聖なる天使の群れ』、『夏、ぼくらの巨人』。随筆『東京の 子規──歩く人・正岡子規』等がある。

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第6回 酒造りの町・伏見ならではの店「鳥せい本店」

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■酒造りの町・伏見ならではの店「鳥せい本店」

 京都駅からなら近鉄で「桃山御陵前」、京都の町中からなら地下鉄烏丸線(近鉄乗り入れ)で同じく「桃山御陵前」、あるいは京阪本線で「伏見桃山」(二つの駅は近接している)下車。目指す「鳥せい本店」はそこから6、7分といったところか。
 店の手前にある駐車場の入口に湧水場があり、いつも大勢の人が「白菊水」と呼ばれる名水を求めて並んでいる。そして、「鳥せい」の料理はすべてその名水を使って作られている。いやいや、そもそも「鳥せい」は延宝5年(1677年)に創業した蔵元「神聖」が直営する店で、神聖が生み出す名酒の数々はこの白菊水から作られているのだ。
酒蔵を改装した趣きある店構えで、店内は広く、明るく、開放的な雰囲気に満ちている。大人気の店だけに、開店30分ぐらい前から連日長い行列ができる。だから、一回転した2時すぎ以降がおすすめなのだが、ワンサカにぎわって店員さんたちが流れるように動き廻っている時の店内も、それはそれで活気があふれていて楽しい。

 「鳥せい」の名が示す通り、鶏料理の専門店だがそのメニューは豊富である。定番はもちろん、やきとり。熟練の料理人による火加減の入り方は実に絶妙で、いつ食べてもうならせられる。やきとりの後は、個人的にはだし巻たまご、ゆばとそぼろのあんかけ、とりコロッケ、また絶品のとりスープは絶対忘れずに、そしてとりラーメンか季節の釜飯で……、といったところか。なお昼時には、とりを使った各種の定食や弁当がある。
 とここまで、わざと最後まで書かずにきたが、この店には超美味な酒があるのだ。その名は、神聖「たれ口(くち)」。その酒をひとくち、口に含むと、口の中にまったりと広がる、まろやかでいてそのくせこってりとした、その何とも言えぬ芳醇な味わいはちょっと比類がない。
 そして、その酔い心地が実に気持ちいい。しっとりと、そしてゆったりと。まるで酒蔵が並ぶ伏見の町そのものが誘う酔い心地にも似て。ただ、たれ口は毎年の秋ぐちから四月いっぱいぐらいまでの季節限定の酒で、それがひどく残念でもあり、またそれだけにかえって、その季節に「鳥せい」に行けた時の幸せと歓びは大きい。
 とにもかくにも、伏見一の名店ここにあり、なのである。

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伏見の町並

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鳥せい本店

著者プロフィール

井上明久(いのうえ・あきひさ)

1945年、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。河出書房新社入社、後に中央公論社入社。1991年から6年間「マリ
・クレール」編集長を務める。 1997年、同社退社後、執筆活動に入る。著書に、長編小説『佐保神の別れ』、『惜春』
、『我ら聖なる天使の群れ』、『夏、ぼくらの巨人』。随筆『東京の 子規──歩く人・正岡子規』等がある。

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