「信じられない!」ところに真実がある●まえがき

 私がまだ16の頃だから、それはもう大昔の話である。5年余におよぶ放校と転校、漂泊(?)の高校生活がそこからはじまっていた。
 ある日、通っていた高等学校の校長に呼ばれ、職員室の並びに立派なドアを構えた校長室へ行くと、明日は引越しを手伝いにくるようにとの話だ。当時この人物は私の保証人だった。
 もちろんそういう立場の人のいいつけに背くことはできないから、明くる日、私は早朝から校長官舎へ出向いて、せっせと指図どおりに働いたのだが、途中ですっかり嫌になってしまった。何しろ何ひとつ捨てないのだ。
 どう見たって二束にも三文にもなりそうにないガラクタを山のようにトラックへ積み上げ終わったので、ガランとした建物を見渡してから、思いついて私は大声で訊いた。
「先生ぇ、鶏小屋の鳥の糞どうしましょうかぁ」
 すると縁側で煙草をくゆらせていた校長は、
「おお、そうだな、乾いた奴は持ってくぞ」
 晩年彼はゴミ山のなかで臨終したのではあるまいか。
 だが友人である私の父の手前もあっただろう。校長先生にいわれましたと、顔も見たことのない教師が突然、私の下宿へやってきた。
 それは明日から学校は春休み、しかし次の者は初日に登校し、追試験を受けるようにという告知が張り出されて1年生420〜430人中の10名ほどのなかに、私の名前も載っていた日の夕方のことだった。
 あとから聞いて判明したのだが、彼は「歯抜け鯖」という納得の仇名の数学教師で、何でも今の校長がこの学校に赴任の折に、相当の下位校から呼び寄せた子分の一員だったらしい。
 そんなわけでその夜は子分の鯖邸に一泊、マンツーマンで追試対策の一夜漬けがはじまった。はじまったといっても、どれもこれも生まれて初めて聞くような話で要領を得ない。そもそも小学校以来、机に向かって勉強という行為のないまま成長したのだから、学ぶという習慣がまったく身についていないのだ。
 翌朝は鯖夫人手作りの朝食を馬のように頬張って、彼の漕ぐ自転車の荷台を辛抱しながら登校、誰かの自転車の荷台になんて趣味ではない、できれば私が自転車で鯖先生には徒歩をお願いしたかったが、そこは一宿一飯の恩義もある。わがままはいえないのだ。
 指定された教室に行くと、机に名前が貼り付けてある。私の名札は片岡頸太と書いてあった。ばかやろう、頸太じゃクビ太だろう、教師といっても無学者も多い。
 やがてひとりまたひとりと生徒たちは集まってきたのだが、病気で長欠という気の毒な同級生を含め、10人ほどの生徒は誰も彼もなるほどの馬鹿面揃い、各々の追試験科目が何かは聞かなかったが、この連中にとってはたぶん追試験とその結果の落第は、お天道様とお月様ぐらいにワンセットだなと教室のなかを見渡していた。
 定刻になると問題用紙を抱えて、学年主任とか生活指導とかの役職にいるヘソが仇名の年寄りがやってきた。このヘソの強硬論で私はすでに2度の停学処分を下され、当然この1年を大幅な出席日数不足で過ごす羽目だったから、いわばその時点での天敵なのだ。おおかたクビ太も奴の仕業だったろう。
 テストがはじまる。渡された問題用紙を見て奇妙な感じがする。どこかで見たことがある問題が並んでいるのだ。ハテいったいどこでこれを見たのだろう。当時デジャヴ(既視感)という単語は知らなかったが……。
 なに、それはデャジャヴどころではない。夕べ鯖先生が私に手取り足取りして教え込んだ問題が、ソックリそのまま出題されていたのだ。
 試験の終わった1週間後、校長の自宅で父は深々と頭を下げていた。
「勁太君には前夜、試験問題すべてを教えたのですが、正解は5問中1問だけだったんです」
 これじゃまるで俺は知恵遅れ扱いじゃないか、どうせ教えるというなら、これが明日の試験問題だと、あの腐れ鯖はなぜいわないのだ。そうすれば全部は無理でもせめて3問ぐらいは丸暗記なりカンニングペーパー作りするなり、十分な対応ができたのに。いや勉強になった。仏作って魂入れずとは、こういうことをいうのだな。
 落第を申し渡された帰り途、電車の座席で父は呆れ果てたのだろう、ひと言も発しないで車外の景色を見つめ続け、針のムシロの私は幸運にも斜め前に座ったセーラー服の大きなオッパイを、ジックリ眺めてムシロの苦痛を和らげていた。
 世間は嘘で成り立っている。真実でさえ嘘を装うのだ。
 しかしそういって世の中を拗ねてどうする。真実さえ嘘のフリをするなら、嘘が真実を真似るのは当たり前ではないか。
 私が競馬番組表を心から楽しむのは、タイムであり馬体重であり血統であり、騎手の巧拙から調教を通した好不調、果てはパドックの気配から展開予想に至る、ありとあらゆる競馬のファクターが、誰をも説得する真実として君臨し続けるからだ。
 真実はそう見えるものほど、本当の嘘なのだとこのプログラムの作り手たちは競馬番組表のページのなかで告白している。


目 次

「信じられない!」ところに真実がある●まえがき

STAGE1 JRA競馬のプレステージ
 競馬番組表理論は技術論ではない
 人を見たら泥棒と思え!
 なぜだ? なぜだ? なぜだ?
 オールカマーと毎日王冠と京都大賞典
 決定的材料がそこにある
 「牡・牝」表示の不思議

STAGE2 有馬から2009年の設計図
 主催者の目論見
 設計ミスの犠牲者たち
 新宿の母は馬券を当てられない
 馬番と戦歴と能力
 ディープインパクトは何だったのか
 これが掟なのだ
 7日間開催が1年を支配する
 08年有馬記念の行方

STAGE3 2歳戦を完全制圧する
 7月19日に矛盾は解決された
 古馬資格賞金半額化を記憶せよ!
 GとJpn
 派遣社員という名の名馬群
 アイドリングは2年間必要
 仮説は真実だったから的中する
 だから出走を取消した
 2歳戦は美味とすべていただきます
 賞金の増減を見逃すな!
 朝日杯と阪神JFは双子か?
 08年の狙い方
 過去を学べ
 正しい戦歴理論の構築

STAGE4 完全解読 エリザベス女王杯と牝馬戦
 名牝は番組表がつくる
 JRA競馬において血統論は気休めである
 ここまで推理できればエリザベス女王杯的中は目前

STAGE5 古馬(Jpn)1の当て方 儲け方
 異端者の系譜
 「強いから勝つのではない」を再確認する
 健全(バカ)な競馬ファンは忘却が得意
 2008年のマイルチャンピオン勝ちの条件
 デュランダルというモデル
 サブタイトルも見逃すな!
 伏線はバラかれている

STAGE6 JRA劇場の開幕です
 国際化は突貫工事だった
 ディープインパクトはオープン特別三冠馬
 主役と囮を見間違うな









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