勝つ気があるのか!?●まえがき

 99年の6月6日、午後3時を回った東京競馬場では、これからはじまるレースに参加しようとする18頭の若駒たちが、静かにスタートの刻を待っていた。第66回ダービーのゲートが、もう開かれようとしているのだ。
 それから丸8年が過ぎた07年5月27日、同頭の駿馬が自身の運命に挑もうとしていた。二つのダービーはアドマイヤベガというスターを選び、そしてウオッカというヒロインを生んだ。競馬のドラマチックな歴史は、こうして絶えることなく続いていく。
 だから競馬に魅了された男たちは酒場で語り合う。アドマイヤベガの風のような差し脚の思い出を。そしてまた何年かの後、酒場で再び語り合うのだ。ダービー馬で、その上もしかしたら凱旋門賞さえ勝ったかもしれない3歳牝馬が日本にいたことを。
 しかし語り合う男たちのなかに、風のアドマイヤベガが勝ったダービーが、3回東京6日目の9レースで1億3200万の1着賞金を争う鎖国戦として、たった1頭のマル外馬も出走を許されていないG1だったことを覚えている者は誰もいない。男たちは切れぎれに記憶するのだ。何年からかダービーが10レースになったことを、そして知らぬ間にダービーの1着賞金が1億5000万になったのを。
 そんな具合だから8年前になる6日目で行っていたダービーが、いつ4日目にくり上がったのか定かではないし、TRの青葉賞が何年までG3だったのか、ダービーを含めてすべてのTRが、定量戦から馬齢戦へ移行した年を覚えてはいない。だから06年からは当日の最終12レースに、古馬重賞競走の目黒記念が移設されたことや、08年の75回大会からはG1としてではなく、Jpn1とダービーの表記が書き改められることも、すぐに記憶の彼方に消え去ってしまうだろう。
 男たちは、何がどう変わろうとダービーはダービーなのだという信仰に生きている。けれども競馬場のなかで生き続けてきた信仰心は、決して男たちを救済してはくれなかった。
 8年の過去は大昔ではない。それどころかある世代以上の男たちにとっては、ついこのあいだのことだ。その短い時間に、ダービーは前述の通り、目を疑うほどの変貌を遂げてきた。枠連1−6、610円、馬連2−11、820円というアドマイヤベガの時代からは想像もつかない馬単3−16、9万8000円、3連単3−16−14、215万という目の眩む配当が、その変化を象徴しているではないか。
 何がどう変わろうとダービーはダービーなのだという手放しな信仰のかたわらで、ダービーと、それを取り巻く環境は、幾度となく脱皮し、その都度変身をくり返したのだ。
 チャールズ・ダーウィンは、自身の著書『進化論』のなかで、強烈なメッセージを放っている。彼はこういったのだ。
「生き残るのは強い者ではない、そして賢い者でもない。変化していける者だけが生き残る」と。
 頑なな信仰心だけを頼りに、変化し続ける競馬に挑んでも、決して報われる日は来ないだろう。JRAは彼らの競馬をダーウィンの哲学さえ超えるポリシーで築き上げて、これからも変わることなくわが道を往くのだ。07年秋、そして08年春へと続く彼らのルートは、それぞれの季節に発表される競馬番組表に、余すところなく書き込まれている。
 ぜひこの1冊の番組表を通して、彼らの進化の過程を目撃してみることをすすめたい。

 

目 次


勝つ気があるのか!?●まえがき

1 今だからこそ、JRAを攻撃せよ!
 JRAがオタオタしてるぞ
 だから未勝利戦が優先された
 闘い方がわかった! つまり勝てるということだ

2 JRAに何かが起こっている
 驚天動地の7日間開催
 突然変異の両金杯
 金杯だけでなく他のGレースも同じ
 タブー開催の馬たち
 こうしてウオッカはダービーを勝った

3 JRAを襲った震災
 テロリスト、激走する!
 ウオッカが破壊したもの
 じゃあ、今までのクラシックホースは何?
 断絶の時代をどう読むか
 「ゲーム」というJRA競馬の本質は変わるのか?
 2007年の春のG1は蜃気楼だった
 ウオッカは美しい生贄だった

4 変則スタンスで攻撃せよ!(秋華賞 編)
 1回中山が7日間開催だったことを考えよう
 すべてを偶然ですませるからあなたはダメなんだ
 平板な捉え方では勝てない

5 菊花賞はこの馬が勝つ
 汚れていない馬はどこにいる
 この馬に密命は託された
 フサイチホウオーは一瞬の栄光に輝く

6 地殻変動の真実(天皇賞秋 編)
 タイトル付レースは正規戦ではない
 天皇賞という名のトリプルタブー戦
 ダービー2着馬の役割
 ダイワメジャーの勝利は3歳時に決まっていた
 秋の天皇賞の主役は?

7 カムバック! エリザベス女王杯
 「もしも」「たられば」を議論するつもりはない
 3つにセパレートしてみよう
 だからカワカミプリンセスは降着した
 戦歴はこう使われる
 新しい時代ではない。時代は遡ったのだ

8 2008年競馬が見えてくる
 賞金はJRAの思想である
 JRA競馬は壮大なゲームであるという認識
 2006年はG1、2007年はJpn
 ウオッカがダービー馬になった真の理由

9 最も当たる出目理論(有馬記念 編)
 出目の神様はいるのか?
 神様はJRA
 神のお告げ!?

あとがき

 









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