いつも負け続けている競馬場の戦士たちに捧ぐ●まえがき

 ♪戦争を知らずに、僕らは育ったー……。
 いつの頃だったろう。若者たちのあいだにそんな歌が流行った時代があった。そして時が過ぎ、今や日本には未曾有の高齢化社会が訪れようとしている。
 しかし、人口構成の高齢化傾向は、決して日本固有の現象ではないようだ。なかにはお隣の大国、中国のように、貧乏人の子だくさんでは立ち行かないと「ひとりっ子政策」を打ち出して、子だくさん世代が老人になった日、国中には若者がパラパラという異様が決まっている場所もあるし、そうした極端は例外としてもG20と呼ばれる国々は、大なり小なり似たような高齢化社会を迎えつつある。
 けれども似たような傾向を辿るそれらの国々、もちろん、それは中国も含めてだが、そこと日本の高齢化社会には決定的な違いがある。
 いや、介護サービスの質がどうのという話ではない。違いは日本の老人たちが誰ひとり「戦争を知らない」年寄りだという点である。かくいう私もいわゆる戦後世代だから、老いぼれ果てる今日まで目にした事物は、すべてが戦後の空気のなかで生まれたものばかり。つまりその意味では今の若者や子どもたちとまったく同じ存在なのだ。
 戦いは国にとっての生き甲斐だといわんばかりのアメリカはもちろん、ロシア人も支那人も英国人も、あるいは銃弾の飛び交う街角に身を潜めて暮らし、やがて宗主国からの独立を果たすのにひと役買った、拝んでいる神様が違うので、ある日とうとう垣根越しに隣の家へライフルをブッ放した、昔はひとつの国だったけど、俺んとこの庭からドッサリ石油が金が出たんで、もう貧乏人たちとはおさらばしてサッサと別の国になるためのドンパチ(クウェートみたいな)、理由や事情はいろいろだが、さまざまな原因で第二次世界大戦のあとも地上に戦火は絶えない。
 そして世界の多くの国々は、それに身をさらした人間たちが中心を占める高齢化社会を形成しつつある。わが国の老人たちと、おそらくまったく異質な哲学に生きる人々の高齢化社会の違いは、単に老人たちだけではあるまい。社会全体の空気に大きな相違があるだろう。
 非核三原則は日本の「国是」で、持つは無論のこと、誰かが持ってくるのもお断りという建前で、それはそれで結構だろうし、今後もそうありたいというのがナショナル・コンセンサスである。
 けれども二言目には「世界でたったひとつの被爆国」という被害者面にはどうにも合点がいかない。
 もし斯界の泰斗である湯川秀樹博士が、ほんの少しだけオッペンハイマーよりも達者だったら、世界初の原爆を手に入れたのは誰でもない、わが帝国陸軍だったのだ。
 たぶん、ホノルルやサンフランシスコの街には、日本軍の非人道的兵器の犠牲となったアメリカ市民の無惨な姿を記録した記念館が、3つも4つも建っていただろう。
 つまり、こと原爆に関していえば、日本はそのレースにハナ差敗れて着外に落ちてしまった3連単馬券の人気馬だった。ハナからその種の兵器は拒み、やむにやまれぬ事情ではじめた戦争の挙げ句、一方的に仕打ちされた被害者とは違うのだ。
 たとえ写真判定でも3着に残れば、見事3連単マルチ大当たり、ヤッた取ったで盛り上がる原爆特別一本勝負に国を挙げての競馬ファンというのが、当時の日本の偽らざる姿だった。
 メインレースに負けたので、最後は帰りの電車賃で最終12レース、特攻隊Sもやってみました。ええ落馬でしたが……。
 そういう姿を外国が忘れると思うほうがどうかしている。彼らが聞けば、「友愛」なんて「よくいうよ」という話だろう。
 戦争を知らないたくさんの僕らが年をとってでき上がった社会、そこは金は儲かって当たり前、公共サービスは誰かがしてくれて当たり前、真っ当に働いた年寄りは、安心して暮らせるのが当たり前という社会だ。
 だから俺のメールが無視された、もう我慢できないレンタカーで突撃だ、学校行ったらシカトされた、口惜しいから納屋で首吊ってやる、次から次へと聞いたこともないような事件が絶えないのは、戦争という問答無用の理不尽にさらされた人々が、社会から退場してしまった国の起こす当然のメルトダウンだ。
 土曜日の夜、俺のブログに書き込みしてくれる女なんて、どえらいブスかデブに決まってる。「90のCカップ、今、短大の二年生で〜す」なんて娘は、みんな今ごろどっかでデートだと、分別とはそういう具体的認識のことを指すのだ。
 それでもほかに何もないから、今夜もあてどなく携帯画面で絵文字を追ってるロビンソン・クローソーたち、そして彼らの故郷の両親は戦争を知らず、いやそれどころか年老いてしまったことさえ気づかず、自動車の枯葉マークは気に入らないと、通販の健康飲料片手に高速道を逆走している。つまり老いも若きも全員が悪しき「俺様主義」に染まった社会が訪れようとしているのだ。
 一発のピカドンは俺様も他人様も、善人も悪人も分け隔てがない。その意味ではこの上なく公平だ。宗教者の言によれば、神様(あるいは仏様)は人を等しく愛し、公平に扱ってくださるそうだ。じゃ選別されて地獄行きって話は嘘かと思うが、神様のくださった公平で目に見えるものはふたつ。そのうちのひとつが戦争で、もうひとつが老化である。
 日本の迎えた高齢化社会は、それに逆らっているのだから「神罰」は逃れられないだろう。わが国最後の戦争世代は何も語ることなく退場してしまった。残ったのは神様の贈り物より「人権」のほうが上だという意見と、それに引きずられる若者と老人の世の中だ。
 競馬場に来てごらん。発走15分前の場内は、死にもの狂いで結論を探すファンで溢れかえっている。真っ当に打ち込んだから研究したから、今日は朝からやられ通しでも、明日はきっと報われる、次は勝ってみせるという俺様主義の男たちでいっぱいだ。
 しかし。JRA競馬は明らかに「仕掛けられた戦争」なのだ。そこを生き延びようとするとき必要なのは、ほかでもない分別である。
 いや1000円買うのを100円にしとけという類の分別ではない。なぜ1回中山は2回中山の前に1回東京開催を挟むのだろう。京都では続けて2開催が施行されているのに、という700万競馬ファンが誰ひとり考えたことのない、疑問とも呼べないような火種に立ち止まる姿勢を分別というのだ。
 戦争を仕掛けた側には確固とした目的があり、その完遂を目指し不敗を誓う作戦用務令がある。それが年間3度に分けて発表される競馬番組表の実像なのだが、天の神様のくださる老化には逆らえなくとも、緑の戦場にいる神様はあなたと同じ二本足、ただ違うのはその二足歩行の神々は、番組表を操ることで決して老化しない永遠を待っているところだ。
 今日30歳になった人も明日55歳になる人も、種類の異なる実弾が飛び交うこの戦場で鍛えれば、その辺の「戦争を知らない」年寄り共よりは、数段気の利いた老人になれるだろう。なぜならそこは、ピカドンの炸裂する戦場と同じ理不尽が、設計され尽くした形で渦巻いているからだ。
 今年初めてパート1国仕様で開催されるクラシックは、G1連続化という新しい戦場での闘いだ。彼らの投入する新兵器に互そうとすれば、彼ら以上の力を得なくてはなるまい。
 この一冊がその一助となれば、戦争を知らずに生きてきた兵士としては本懐である。


目 次

いつも負け続けている競馬場の戦士たちに捧ぐ●まえがき

第1章 金杯がすべてのカギを握っていた!
 金杯の日がいつだっていいじゃないかという考え方
 金杯が1年をコントロールする
 1月5日が土曜日、このカレンダーが奇蹟を起こす
 出目と競馬番組表の関係
 金杯の歪みはすべてを歪ませる
 タブー開催のタブー馬が涌いている
 金杯が双子でなくなったとき
 中山→東京→中山と京都→京都→阪神
 京都金杯は誰のために設計されたのか
 主催者にバカにされるのはこれきりにしよう

第2章 事件は競馬番組表で起こっているんだ!
 ジャパンCダート、阪神移設事件
 G1連続開催はファンにとって天国か地獄か
 今までも、これからも負け続ける宿命なのか
 2009年宝塚・ドリームジャーニーの遺言
 開催回数をあなどるな 
 使い捨てG1馬
 カンパニーが教えてくれること
 これが番組表の仕様書だ

第3章 競馬番組表はバーチャルリアリティ
 二流馬の挑戦
 能力ゆえに走ったわけでも負けたわけでもない
 ジョーカプチーノの役どころ
 まず3つの数字を当てる
 手がかりは物陰に隠してある
 競馬番組表はバーチャルリアリティ

第4章 競馬番組表で語る名牝物語
 ウオッカとダイワスカーレット
 名馬っていったい何だ? 
 ウオッカの戦歴を見ると馬券がとれる
 仮設住宅の王者
 ダイワスカーレットの大仕事
 タブー戦でマツリダゴッホが走る 
 ウオッカはこうして主演女優賞を獲得した
 ウオッカの亡霊は現れるだろうか

第5章 春のG1の設計図 ―ヴィクトリアマイルと天皇賞
 ゾロ目開催の意味
 第5回ヴィクトリアマイルが創設レース?
 ウオッカを検証せよ!
 新天皇賞がはじまる
 テイエムオペラオーはどの馬か?
 春天は正規戦ではない 

第6章 春のG1を的中させるための名牝物語
 競馬番組表の意図が見えた
 ヴィーヴァヴォドカという馬をマークすると…… 
 B枠の構成 
 降着の本当のわけ
 JRAは馬の能力を完全掌握している 
 これがシナリオだよ!
 レース別に偏差値が設定されている
 新馬ファンはボロ儲けすることを許されない

第7章 今年のG1戦線はこうなる!
 オペレートの完遂 
 2009年秋華賞の役割
 ABC枠そのままスライド
 主催者は幕引きを急いでいる
 競馬よりあなたの頭の中が問題だ!
 本当に必要な情報がどこにも載っていない
 JからGへ、それは単なるアルファベットが変わっただけじゃない
 優先チケットって何だ? 
 プリンシパルSに注目せよ! 









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