出馬表をベースに競馬を研究するようになって、「人間は、人生を後ろ向きに走っている」という古代ギリシアの人々の諺の意味を噛みしめるようになった。何事にも前向きに取り組んできたつもりではあるが、進学、就職、結婚、マイホーム購入……人生のあらゆる岐路では、自分自身が過去に経験したことや、先人が経験したことを踏まえて、進むべき道を選んできたつもりである。
「人生」を「競馬」に置き換えて考えると、これまたピタリと嵌まる。
 押し出される形で、単勝1人気に支持された馬は馬群に沈む。
 混合G1で牝馬が単勝1人気に支持されたケースでは、人気を裏切る確率が高い。
 人気薄の逃げ馬は穴をあけるが、人気の逃げ馬は、ゴール前で後続につかまる。
 多くの競馬ファンは、過去の競馬で経験したことをベースに、未来の競馬を予想し、その結果に一喜一憂している。
 近代競馬が18世紀にはじまって以来、「速くて」「強い」サラブレッドを目指し、200年以上もの長きに亘って、サラブレッドの改良は続けられてきた。世界の競馬場で走り続けているサラブレッドの父系をたどっていくと、三大始祖といわれるダーレー・アラビアン、バイアリー・ターク、ゴドルフィン・アラビアンの3頭に行き当たる。
 ブラッド・スポーツといわれる競馬では、「より速く、より強く」を合言葉に、競走馬として実績を残した良血の種牡馬と、良血を引き出す繁殖牝馬の配合が、何代にも亘って行われてきた。1頭数千万円という価格で取引されるサラブレッドは、育成、調教を経て、美浦もしくは栗東のトレーニングセンターに、月々50~60万円の預託料で入厩。厳しい調教を経て、競走馬としてデビューする。
 サラブレッド生産における競走能力の遺伝は、母馬から資質の約6割、父馬から約4割受け継ぐことことが知られているが、競走馬と人間は、「馬7:人3」といわれるように、先天的な競走能力や育成、調教を経ての競走馬としての成長は、たぶんに個々の競走馬によるところが大きいわけだが、その競走能力を引き出すのが、3割の役割を担う人である。
 より速くより強いサラブレッドを求めて、様々な交配が試みられてきた。その結果、3代前の祖先と、4代前の祖先が、同じ名馬になるインブリード配合、奇跡の血量18.75%によって、名馬が誕生する確率が高くなることが発見される。天馬と呼ばれたトウショウボーイは、第17代ダービー伯爵の最高傑作といわれるハイペリオンの奇跡の血量18.75%。凱旋門賞に挑戦して2着となったエルコンドルパサーは、20世紀最高のサラブレッドと賞賛され、1カラットのダイヤモンドよりもこの馬の一滴の血のほうが価値があるとまでいわれたノーザンダンサーの奇跡の血量18.75%。ウオッカの父タニノギムレットは、8戦7勝、勝ったレースのほとんどが圧勝だった快足馬グロースタークの奇跡の血量18.75%。2006年の2冠(皐月賞、日本ダービー)にして、2007年に天皇賞春秋連覇を成し遂げたメイショウサムソンは、エルコンドルパサーと同じくノーザンダンサーの奇跡の血量18.75%。
 割合で見ると、近代日本競馬の歴史的な名馬の10頭に1頭は、名馬の血量を18.75%受け継いでいることになる。奇跡の血量18.75%は、確かに歴史的な名馬を輩出しているが、生まれてくるサラブレッドが、父・母馬より受け継ぐ競走能力は約3割程度。残る7割については、母体で過ごしているあいだや、生後の育成環境、競走馬としての調教環境などが影響するといわれている。
 ここ20年で見ても、プール調教、坂路調教、ウッドチップコースの創設など様々な工夫が試みられているわけだが、勝ち馬を予想する馬券理論においては、これといって大きな進歩が見られることなく、現在に至っている、と私は考えているが、読者のみなさんは、どう思われるだろうか?
 競馬必勝法を追い求めた研究者は、星の数ほどいても、「これぞ、競馬必勝法」と呼ばれるものが、果たして存在するのだろうか。
 競馬必勝法が存在する、しないを論じるつもりはない。一般の競馬ファンが、週末ごとに行われる競馬において戦う術は、様々なデータが網羅された出馬表しかないと私は考えている。
 この出馬表を科学的に分析し、印や単勝人気順位にバイアスの掛かることのないスタンスで予想すれば、競馬必勝法の道は、自ずと切り開かれていくはずである。本書は、自然現象の解明、信号処理などの工学分野のみならず、医学分野、経済分野においても広く注目されているフラクタル理論の考え方を出馬表の相似性に求めた『出馬表を科学するフラクタル競馬理論』の新たなバージョンである。
 前作『的中馬券を科学する』では、最も馬券売り上げの少ない第1Rと、最も馬券売り上げの多い第11Rの出馬表を並べて、騎手の騎乗ゲートや枠、種牡馬の並び、前走着順などのほか、第1Rの結果を手掛かりに、第11Rの出馬表とのあいだに相似性を求めたが、今回は、3連単発売4レースの出馬表に共通する相似性を手掛かりとして、3連単発売4レースに共通する馬券アプローチにチャレンジした。
 JRAは、「JRAサマーステージ」と題して、夏季2開催の全レースで3連単を試験的に発売することを表明。おそらく、3連単馬券は、そう遠くない時期に、全レース発売になるだろう。
 今回は、3連単発売4レースに解析対象を絞り込んでいるが、午前中のレースや第9R前の平場のレースをピンポイントで選んで馬券アプローチするケースでは、第1Rと当該レース、ふたつの出馬表を並べて、相似性を手掛かりとする馬券アプローチを提案したい。何故に第1Rを引っ張り出すのか? という疑問に関しては、『的中馬券の科学』に目を通していただければ、理解していただけるであろう。
 3連単発売レースに共通する出馬表上の相似性を手掛かりとする『出馬表を科学するフラクタル競馬理論』の3連単発売レース共通驚愕の馬券アプローチをとくとご覧になっていただきたい。まずは、本書をひと通り読み終えていただき、その後でサンプル事例から相似性の見極め方を学んで欲しい。雲の上にあるかどうかもわからなかった競馬必勝法は、とても身近に、しかもいつでも手が届く出馬表にあったということが、わかるはずである。