はじめに
                            産婦人科医 宋美玄

 妊娠中または子育て中に、道端で見知らぬ人に声をかけられて何かアドバイスをされたという経験のある人も多いと思います。また、友人や知人、親やきょうだいが、健康法や育児法にいろいろと口出しをしてくることもよくありますね。
 これを私は「一億総姑現象」と呼んでいて、どうも妊婦や小さな子どもの親には、アドバイスをしてもよいという認識の人が多いようです。その内容が正鵠を射ているならありがたいのですが、妊婦さんや患者さんたちから「知り合いから言われたのですが、本当ですか?」とたずねられるものの大半は、残念ながら眉唾ものです。
 一方で、近頃はスマートフォンひとつで、情報の海に漕ぎ出せる時代になりました。ところが、疑問や不安を解決しようと検索しても、インターネット上の子育てサイトなどから得られる情報は、残念ながら玉石混淆もいいところです。子育てサイトには、専門家への取材もせず、監修も受けず、根拠のない適当な記事を量産しているところが多く、むしろ親たちを混乱させています。
 さらには、学校や公的機関、専門家が発信する情報さえ、まれに頼りにならないことがあります。学校教育に歴史的・科学的に間違ったものが紛れ込んだり、一部の医師や助産師、保健師などの専門家が間違った情報を発信したりすることもあるのです。

 このように玉石混淆の情報の海から、本当に子どものためになるものを選び取るには、「なんかこれよさそう」という感性だけを頼りにするのはよくありません。リテラシーが必要なのは、医学だけでなく、育児、食、教育など何事でも同じです。基本的な知識や論理的思考がないと、うさん臭いビジネスやカルト的な団体のカモになってしまうこともあります。
 何が正しくて、何が間違っているのかわからない……。そういうときに「子どもには○○が危険」といった情報に触れると、本当かどうかはわからないけれど、とりあえず避けてみようというのは、よくある対応です。しかし、特定のものを避けることにもリスクがあります。たとえば、代表的なアレルゲンをあらかじめ避けると、アレルギー発症のリスクが高くなってしまいます(95ページ参照)。
 また、「親がチョイスすればいいんじゃない」、「どれを選択しても、子どものために必死で考えた結果だからいいと思う」というような安易な考えにも陥りがちです。でも、きちんと考えるためには、最低限の知識と論理的思考が必要でしょう。明らかな間違いというものは存在するからです。たとえば子どもに「ワクチンを打つのも打たないのも正解」ということはありません。ワクチンを打たなければ、重大な病気にかかる恐れがあるのです(60ページ参照)。

 子どもは、親や周囲の大人を選ぶことができません。子どもは、大人たちが取捨選択する過程に口を出すことはできず、選択を受け入れることしかできないのです。その結果、何かトラブルが起きた場合に、「でも、あなたのことを必死で考えたのだから」と言い訳をしても、責任を取りきれません。健康被害やなんらかの不利益をこうむるのは、子どもたちです。

 この本は子どもにまつわる事柄で、多くの人が疑問に思っているだろうことを集め、
それぞれの専門家がわかりやすく回答したものです。親だけでなく、多くの大人がリテラシーを身につけ、大切な子どもたちを守れる社会になるよう願っています。