第3回 母乳育児をするためには

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先日、ある妊娠中の女性が、授乳中の友達の乳房が大きくなって形が崩れているのを見てショックを受けたという理由で「私は絶対に粉ミルクだけにして、母乳はあげないと決心しました」と言うので驚きました。母乳育児の盛んな現代の日本で、母乳の利点のこと、母乳をあげなくても妊娠・出産すると乳房は大きくなることをまったく知らないようだったからです。40年以上前の日本によくあった考え方ですね。

 改めて、母乳のよい点をおさらいしましょう。
 まず、お母さん側のメリットから。母乳をあげたほうが増えてしまった体重も、大きくなった子宮も元に戻るのが早くなります。つまり、前述の方のように体型を気にするなら、母乳をあげたほうがいいと言えるでしょう。さらにお母さんが将来、乳がんや卵巣がん、骨粗しょう症になる頻度も下がります。
 次に、赤ちゃん側のメリットとしては、感染症にかかる確率が低くなり、乳幼児突然死症候群などの病気も予防できる可能性があります。だから、母乳が無理なく出て、お母さんの負担になりすぎるわけではなければ、赤ちゃんにはぜひ少しでも多くの母乳をあげてほしいのです。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/apa.13136/full )。

 でも、「母乳育児はつらい」と言うお母さんは少なくありません。どうしてでしょうか。それは大まかに以下のような理由が挙げられます。

①軌道にのるまで頻回授乳が必要だから
 母乳は、産後すぐから頻繁に授乳することで出やすくなります。でも、産後すぐは、まだあちこちに出産による痛みや疲労が残っていたり、母乳がスムーズに分泌されるまでは乳房や乳首も痛かったりしますし、なかなか大変なことは確かです。

②適切な指導や支援が受けられないことがあるから
 母乳について指導する助産師や看護師が足りないことがあります。出産は予定通りコンスタントに進むものではないので、出産が続くとスタッフの数がどうしても足りなくなります。だから、支援が必要なお母さんに必ずしも充分な支援が行き届きません。また、授乳姿勢や負担のかからない方法が周知されていない、助産師によって言うことが違うということもあります。

③母乳をあげにくい人もいるから
 母乳の産生量には個人差があり、出産後スムーズに母乳が出る人ばかりではありません。約1割は、さまざまな理由で充分な母乳が出ないと言われています。そういった体質に加え、②の適切な授乳指導や支援をしてくれる人の有無、授乳以外の家事・育児の手伝いをしてくれる人の有無などの社会的環境、お産直後の精神状態、健康状態も人によって違うため、必ずしも頻繁に授乳できるとは限りません。

④無駄にお母さんを縛るデマが多いから
 「母が食べたもので母乳が甘くなったりしょっぱくなったりする、乳児湿疹が出る」、「洋食を食べると母乳がドロドロになる」、「授乳中はあらゆる薬、カフェインは禁止」など、授乳がつらくなるようなデマがばらまかれています。これらはすべてウソです。
 母乳に含まれる<子どもの成長に欠くことのできない大事な成分>は、よほど極端な食生活をしていなければ、お母さんの食べたものでそう変わることはありません。例えば、母乳中のたんぱく質、ビタミンB12、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、銅、ナトリウム、カリウム、乳糖、脂肪の総量といったものは、お母さんがたくさん食べてもあまり食べなくても一定です。赤ちゃんの貧血予防に、授乳中のお母さんが鉄剤を飲んでも、残念ながら母乳中の鉄は増えません。母乳の味や匂いが、食べた料理で微妙に変わる可能性はありますが、そんなことで赤ちゃんは飲むのをやめたりしません。いつもと違うニンニクの匂いがしたとき、赤ちゃんがより長い時間母乳を飲んでいたという論文もあります(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1896276 )。
 また、お母さんが何かを食べないようにすることで、アレルギーを予防することはできません。日本小児アレルギー学会のガイドラインは、偏りなく食べるように言っています。アメリカ、ヨーロッパの学会でも同様です(http://www.jspaci.jp/jpgfa2012/chap11.html )。ただし、お母さん自身がアレルギーのある食品だけは避けましょう。大事なことなので再度書きますが、母乳をあげているお母さんは1か月程度のスパンで偏りなくなんでも食べてくださいね。

 以上をまとめると、母乳育児を無理なく続けるためには、できれば妊娠中に適切な授乳方法や姿勢、ウソ・ホントなどを調べておき、産後は早い時期から頻繁に授乳することが大切です。宋美玄先生との共著『産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK』に詳しく書きましたのでチェックしてみてくださいね。
 それでもダメなら、粉ミルクがあります。「粉ミルクだと赤ちゃんの髪が逆立つ」、「母乳をあげないと発達障害になる」「粉ミルクだとキレやすい子になる」などの説はウソです。粉ミルクの消費量がとても多かった1970年代に赤ちゃんだった大人たち(現在の40代)も、ちゃんと育っています。

 赤ちゃんにベストなものを与えたいという気持ちは大切ですが、それぞれのお母さんができる範囲でやればいいと思います。笑顔で子育てできることも、とても大切だということを忘れないでくださいね。

子どものケアについての疑問、大募集!
ふだん疑問に思っていること、知りたいことなどありましたら、ぜひこちら(all@metamor.co.jp)までメールをお寄せください。全てに回答することはできませんが、可能な限り、この連載上でお答えしていきたいと思っています。
※個別にお答えすることはできません。

著者プロフィール

森戸やすみ(もりと・やすみ)

1971年東京生まれ。
1996年私立大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、現在は市中病院の小児科に勤務。

著書

育児の不安

らくちん授乳

第2回 夏の三大皮膚トラブル

ママ

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 暑い夏には、子どもの皮膚トラブルが多くなります。
 特に多いのが、虫刺され、汗疹、とびひの三つ。みんな赤くなりブツブツしますが、虫刺されは、一番多いのが蚊で1個だけあるいは数個でも離れていることから見分けがつきます。汗疹は盛り上がりが少なく、赤い部分はまとまって散在し数を数えることができません。とびひは、水疱の場合とかさぶたの場合があります。それぞれの原因と対処法を説明していきましょう。

<虫刺され>
 蚊に刺されると痒いのは、蚊の唾液に対するアレルギー反応のため。乳児は刺されてから1~2日後に痒みが出てくる遅延反応しかなく、幼児期から青年期には刺された直後から痒い即時反応と遅延反応のどちらもあります。うちの次女は1歳くらいまで蚊に刺されても痒がることもありませんでしたし、生後5~6か月未満の子はまだ、手をそこに持って行って掻くということは上手にできません。1~2日後でも乳児期にはそれほど強い痒みはないのでしょう。
 たとえ掻かなくても、ものすごい腫れと赤みや水疱がでたりするのは、蚊の唾液に対する過剰反応であるストロフルスです。これは冷やしてあげたり、ステロイドの入った軟膏を塗ってあげたりするとよくなります。
 蚊に刺されたときに、50℃のお湯をかけると痒くなくなるという説があるようです。痒み物質が壊れるという発想のようですが、残念ながらありえません。痒みを引き起こすのはヒスタミン、セロトニンなどが主体で、どちらも50~100℃程度では壊れないからです。低温火傷も心配なので、やらないようにしましょう。他にもセロハンテープを貼るといいとか、塩を塗り込むといい、石鹸で洗うといいという説があるのですが、どれも効果はありません。テープを貼れば空気に触れないからいいとか塩の浸透圧で毒を出す、石鹸のアルカリ性で中和するという理屈のようですが、蚊の唾液は皮膚内に入ってしまっているので意味はないでしょう。
 また痒みの原因物質を出すマスト細胞や白血球が、原因物質を出すだけ出した後に痒み止めを塗っても、あまり効果がありません。虫に刺されたらなるべく早くに薬を塗って、ヒスタミンの放出を防ぎましょう。ステロイド入り軟膏は、薬局で市販もされているし、皮膚科や小児科で診てもらって処方してもらうこともできます。目や口に入らないように気をつけて塗りましょう。
 でも、その前になるべく刺されないようにするのも大切です。最近、デング熱、日本脳炎など蚊が媒介する病気が話題ですね。他にも外国にはジカ熱、マラリア、黄熱、ウエストナイル熱などがあります。蚊に刺されたら痒いというだけの認識ではダメです。
 虫除けの効果があって認可されている成分はディートとイカリジンですが、従来それぞれの濃度は12%、5%以下になっていました。2016年に厚生労働省が日本でも高濃度の製品を認めることを発表したので、各社が開発を急いでいるところです。ただし、今の濃度のディートでも厚生労働省が使用方法には気をつけるよう勧告をしています。生後6か月未満の乳児には使用しない、6か月以上2歳未満は1日1回、2歳以上12歳未満は1日に1~3回までです。袖や裾の長い衣服を着るのも虫除けになります。上手に使ってくださいね。
 
<汗疹>
 汗疹は、予防が第一。クーラーや扇風機などを使って涼しい環境を保つ、汗をかいたらそのままにせず、できたらシャワーを浴びさせてください。水道水で流したり、タオルなどで拭いたり、汗に濡れた服を取り替えたりするだけでもいいでしょう。子どもはよく額に汗疹ができます。額や鼻の頭に赤いブツブツが広がったら汗疹です。そのほか、オムツの中、仰向けに寝る子どもは背中など、長時間蒸れるところにできやすいでしょう。
 汗疹ができてしまったら、まずは痒みを抑えましょう。真皮に汗が染みることで炎症を起こしているため、涼しくして掻かないようにしていれば自然に治りますが、掻き壊すと汗腺膿瘍やとびひになります。痒みが強い場合は、皮膚科や小児科にかかりましょう。ここでも痒みをよく抑えてくれるのは抗ヒスタミン薬の塗り薬やステロイド軟膏です。ベビーパウダー、タルカムパウダー、天花粉は汗疹の予防にはいいのですが、汗疹ができてしまってからは炎症をひどくする場合があるので使わないようにしてください。
 以前、汗疹の話を書いたときに、「子どもがいてもクーラーや扇風機を使ってください、むしろ子どもにこそ必要です。汗をかけないようになることはありません」と書いたところ、主題だった皮膚トラブル以上に、そちらが注目を集めたことがありました。 
 大事なことなのでこちらでも書きますが、「子どもが汗をかけなくなってしまうのでクーラーをなるべく使わないように」という説には、科学的な裏付けがありません。確かに汗をかく機会が多いと、ミネラル分の少ない水分ばかりの質のいい汗をかくようになるというのは本当です。でも、汗をかくための練習は必要ありません。暑ければ汗をかきます。そして、外出したりクーラーのない部屋に行ったりと、夏の間に汗をかく機会はたくさんあります。体温調節の能力が大人のようにまだ十分でない乳幼児は、近年の猛暑の中、水分・塩分が十分に取れない場合は、熱中症で命に関わることがありますから注意してあげてください。

<とびひ>
 子どもは、虫刺されや汗疹、傷などを掻きむしってしまうことがあります。すると血が出たり、なぜか周囲までぐしゅぐしゅになって水泡やかさぶたができたりすることがありますよね。これがとびひです。医学的な正式名称は、伝染性膿痂疹といいます。
 初めは1箇所の虫刺されやあせも、傷などでも、触ったり掻いたりすることによりブドウ球菌や溶血性連鎖球菌といった細菌が入り込むと、細菌が作り出す毒素が周辺にまで散らばります。そのため、離れた部分のまったく健常な皮膚にいくつも水疱ができたり、厚いかさぶたのついた発赤疹ができたりするのです。ですから、虫さされや汗疹、傷などを掻いたりしているようなら痒み止めを塗る、痒み止めパッチを貼る、ひどい汗疹なら内服薬ももらうなどすると、とびひになりにくいでしょう。
 とびひができてしまったら、放置すると広がっていくので早めの対策が必要です。小児科や皮膚科にかかって、抗菌薬(抗生剤)や痒みを抑える薬の内服をしたり抗菌薬・抗ヒスタミン薬の軟膏を塗ったりします。治るまでは、プールに入ると悪化するため入れません。また、病変部分の接触で他の人に移したりしないよう注意しましょう。

著者プロフィール

森戸やすみ(もりと・やすみ)

1971年東京生まれ。
1996年私立大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、現在は市中病院の小児科に勤務。

著書

育児の不安

第1回 かかりつけ医を持とう

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よく「妊娠中にかかりつけ医を探しておこう」と言いますよね。それは、子どもが生まれると、特に最初の数年は予防接種や健康診断、風邪やその他のトラブルで通う必要があるからです。生まれた際に特別な問題がない場合は、大病院ではなく近くの診療所をかかりつけにしましょう。

 では、かかりつけの診療所はどうやって選んだらいいでしょう。
 子どもは普通、小児科をかかりつけにしますね。何科が専門かを掲示などで知らせることを「標榜する」と言いますが、「内科/小児科」と「小児科/内科」と標榜している診療所があったとしたら、どちらを選びますか?
 複数の医師が在籍する診療所であれば、内科と小児科と両方の医師がいるのかもしれません。でも、「内科/小児科」と標榜していて医師が一人なら、ほとんどの場合は内科医が小児科も診るということです。反対に「小児科/内科」と標榜していて医師が一人なら、小児科専門医が内科も診ますよということです。小児科専門医かどうかを確認したい場合は、日本小児科学会のサイト(https://www.jpeds.or.jp/modules/senmoni/)で検索することができます。

 私は小学生以上の大きい子どもは「内科/小児科」診療所をかかりつけにしてもいいかもしれないと思いますが、未就学児とくに1歳未満の乳児は「小児科」または「小児科/内科」を標榜している診療所で、小児科専門医に診てもらったほうがいいと思います。
 医師になるには、医学部で全部の診療科を勉強します。整形外科医になる人も内科や皮膚科を勉強するし、病理医を目指す人も眼科や消化器外科も勉強します。でも、以前は医師国家試験に合格すると、どこかの科にすぐ入局して診療を始め、他科に勉強しに行くことはほぼありませんでした。そういうキャリアパスだと専門性が高くなりすぎて、いわゆる専門バカになってしまう危険性がありますね。泌尿器には詳しいけれど、産婦人科のことは全くわからないという医師になりかねません。
 人は複数の病気に同時にかかることがあるし、ひとつの病気を追っていたら全く別の病気にもなるということだってあります。原因不明の発熱と皮疹だと思われていたら、成人にはめずらしい川崎病だったなんてこともあります。川崎病は小児科ではめずしい病気ではないので、小児科の診療に慣れていれば診断にそれほど手間どらないのですが、大人しか診ない医師は鑑別疾患に浮かびにくいでしょう。

 そこで、医師が幅広い知識と経験を持てるようにと、2004年に医師臨床研修制度が見直されました。医学部卒業後の2年間は、内科を6か月、救急は3か月、あとは外科・麻酔科・小児科・産婦人科・精神科の5科の中から2つを選んで研修します。その後、志望する科に入局するという仕組みになったのです。
 そのため、若い医師は小児科診療をしたことのある場合が多いのですが、2004年以前に医師国家試験に合格し、ローテーションあるいはスーパーローテーションという複数の科を回る研修プログラムを受けなかった医師は、小児を診るトレーニングを受けていません。
 それでも標榜するものの中に小児科を入れても違法ではないので、多くの患者さんに来てほしい場合、看板に小児科を入れることがあります。それでは小児科のことをどのくらい知っているのか心配になりますね。私も心配です。

 特に1歳未満の乳児(ベビー)と呼ばれる年頃は、予防接種がたくさんあります。かかりつけ医は、数年に一度は変わるワクチン事情をちゃんとキャッチアップしていないといけません。定期予防接種は決められた期間内に受けそこねると、有料になってしまいます。成長発達が著しい時期でもあるし、最近は親御さんが発達の遅れやアンバランスを気にされているので、病気だけでなく成長発達にも詳しくないといけません。さらにアレルギー界隈も、数年ごとによいと言われることは変化するし、新しいことがわかってくるので、その知識も必要です。ですから、子どものかかりつけ医は、小児科専門医であることがベストでしょう。

 とはいえ、内科でもそういったことを勉強して詳しい医師もいるし、小児科医なのに不勉強でしかもコミュニケーションが取りにくい医師もいるでしょう。それは医療機関が新しいとか規模が大きいとか、建物が立派などということとは、なんの関係もありません。さらに学位をもっている医学博士かどうかとか、出身大学がどこの医師かということとも関係がありません。
 どういう医師がいいかというと、距離的に近い以外にも心理的に近く、なんでも相談できて説明もわかりやすい医師がいいですね。質問して嫌な顔をされないかなど、保護者の方は相性も含めてよく見てみましょう。そして、発熱だけで条件反射のように抗生剤を処方しない、保護者に説明なく勝手に検査をしない医師がいいと思います。この二つは私の経験からいえることです。
 かかりつけ医として適切な医師かどうかを見極める万能なチェックポイントはありませんが、実際に行ってみて判断してくださいね。

著者プロフィール

森戸やすみ(もりと・やすみ)

1971年東京生まれ。
1996年私立大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、現在は市中病院の小児科に勤務。

著書

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